【著作権法・不正競争防止法】8を解いてみた。(限定提供データ 初出題)

2022年4月29日

令和3年の短答試験では限定提供データについての問題が出題されました。
改正によって新たに規定された部分ですので自分の勉強も兼ねて解いてみました。
ちなみに弁理士試験で限定提供データについて問われたのは今回が初めてです。

【関連記事】下三法ってどこまで勉強すればいいの?

 

問題編

【著作権法・不正競争防止法】8
不正競争防止法上の限定提供データに関し、次のうち、最も適切なものは、どれか。
1 会費を払いさえすれば誰でも提供を受けられるデータについては、限定提供データに該当することはない。
2 保有者が管理しているデータの全部ではなく一部だけが提供される場合、当該一部のデータが限定提供データに該当することはない。
3 限定提供データに関し、その相当量蓄積されている情報が無償で公衆に利用可能となっている情報と同一であれば、その限定提供データを取得する行為は、限定提供データに係る不正競争防止法上の規制の対象となることはない。
4 秘密として管理されている情報については、限定提供データに該当することがある。
5 不正の利益を得る目的で、又はその限定提供データ保有者に損害を加える目的で、人を欺いて限定提供データを取得する行為は、刑事罰の対象となる。


引用元:令和3年度弁理士試験短答式筆記試験問題(https://www.jpo.go.jp/news/benrishi/shiken-mondai/document/2021tanto/question.pdf)

前提

限定提供データが不正競争法に追加されたのは平成30年改正の時です。施行日は令和元年(平成31年)7月1日です。
この問題では、限定提供データに対する理解が問われています。
限定提供データに該当すれば、不正競争防止法の2条1項11号から16号までの保護を受けることができます。
すなわち営業秘密のように、盗み出したりそれを開示することが禁止されています。

限定提供データってなんですか??。。

不正競争防止法の2条7項に定義がありますが限定提供データとしてイメージしやすいのは、複数の企業が利活用する地図データです。近年、データは企業の競争力の源泉になっています。このようなデータは1社が営業秘密として蓄積して保有するよりも、複数の企業で共有したほうが効率が良いです。このために、そのような限定提供データを法律で保護することになりました。
例えば地図データを使用したい複数の企業が会費を支払って地図データを入手しているようなシーンを想像して問題を解きましょう。

解答編

答えは特許庁のホームページにある通り「3」です。

1、 会費を払いさえすれば誰でも提供を受けられるデータについては、限定提供データに該当することはない。答え:×
【解説】
「限定提供データ」の定義は不正競争防止法2条7項より以下のように規定されています。
「業として特定の者に提供する情報として電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他人の知覚によっては認識することができない方法をいう。)により相当量蓄積され、及び管理されている技術上又は営業上の情報(秘密として管理されているものを除く。)」

引用元: 不正競争防止法2条7項

「特定の者」とは、一定の条件の下でデータ提供を受ける者を指します。
特定されていれば、実際にデータ提供を受けている者の数の多い少ないに関係なく本要件を満たします。
一定の条件は会費を払っていることでもよいので、会費を払えば誰でも提供を受けられるデータについて、会費を払って提供を受ける者が該当します。
ですので限定提供データに該当しうることになります。

2, 保有者が管理しているデータの全部ではなく一部だけが提供される場合、当該一部のデータが限定提供データに該当することはない。 答え:×
【解説】
保有者が管理しているデータの一部が提供される場合は、その一部について、蓄積されることで生み出される付加価値、利活用の可能性、取引価格、収集・解析に当たって投じられた労力・時間・費用等を勘案し、それにより当該一部について蓄積され、価値が生じている場合は、相当蓄積性があるものと判断されます。
引用元:不正競争防止法逐条解説(https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/20190701Chikujyou.pdf)

全部か一部が問題になるのではなく、その一部について蓄積され、価値が生じている場合は、相当蓄積性があるものと判断されるので限定提供データに該当しうることになります。

3, 限定提供データに関し、その相当量蓄積されている情報が無償で公衆に利用可能となっている情報と同一であれば、その限定提供データを取得する行為は、限定提供データに係る不正競争防止法上の規制の対象となることはない。 答え:〇
【解説】
これは条文によって解けるレベルの問題です。
19条の適用除外の8号 ロ には次のように記載されています。
その相当量蓄積されている情報が無償で公衆に利用可能となっている情報と同一の限定提供データを取得し、又はその取得した限定提供データを使用し、若しくは開示する行為 
引用元: 不正競争防止法19条8号
つまりこのような行為については、適用除外によって不正競争防止法上の規制の対象にならないのです。

4, 秘密として管理されている情報については、限定提供データに該当することがある。 答え: ×
【解説】
これも条文レベルの問題です。
不正競争防止法2条7項の「限定提供データ」の定義では(秘密として管理されているものを除く。)
とあります。よって限定提供データに該当することはありません。
ちなみに秘密として管理されているものを除いている理由は、 「営業秘密」 との重複を避けるためです。
「営業秘密」と 「限定提供データ」 の違いは、 「営業秘密」 が事業者が秘密として管理する情報なのに対して「限定提供データ」は、一定の条件を満たす特定の外部者に提供することを目的としている点です。

5, 不正の利益を得る目的で、又はその限定提供データ保有者に損害を加える目的で、人を欺いて限定提供データを取得する行為は、刑事罰の対象となる。 答え:×
【解説】
第二十一条の罰則には「限定提供データ」に関することはありません。
この理由としては限定提供データに関する規律は事例の蓄積も少なく、事業者に対して過度の萎縮効果を生じさせないためです。

上記の解答と解説はこちら↓の資料から作成しました。

逐条解説 不正競争防止法 経済産業省 知的財産政策室編

小ワザ

Posted by kisaragia