令和4年の弁理士論文式試験を振りかえる

2023年5月5日

論文式筆記試験とは

弁理士試験では論文式筆記試験は2次試験に該当します。つまり1次試験の短答試験に合格した受験生が論文 式筆記試験を受けることができます(ただし一部免除制度があります)。
近年、1次試験(短答式試験)の合格率は10%程度なので1000人受けたら900人落ちる試験です。
つまりこの1次試験に合格した人はかなりの実力者です。そんな実力者の中で競い合って合格を勝ち取るのが論文式試験です。

天才の男

論文式筆記試験は 例年7月の第一週目の日曜日に実施されます。
令和4年の論文式筆記試験は2022/7/2(日)に実施されました。

令和4年の論文式筆記試験の内容について

はやく、公式の解答が見たいんですけど

短答式試験では、特許庁から解答が発表されます。
しかし論文試験は解答は発表されません。
その代わりに公表論点が発表されます。
公表論点はこれらが適切に論じてあれば、合格していますよといった簡易版の解答のようなものです。

じゃあ、その公表論点とやらを見せてください。

令和4年の論文試験の公表論点

①特許実用新案

【問題Ⅰ】以下の事項についての理解を問う。
1 外国語特許出願についての補正の特例
2 優先権の種類及び効果
3 先願及び拡大された先願の地位
4 意に反する新規性の喪失
【問題Ⅱ】以下の事項についての理解を問う。
1 冒認出願の場合の特許権の移転登録請求
2 特許法第 79 条の2の通常実施権
3 独占的通常実施権者による損害賠償請求の可否
4 訂正の再抗弁

②意匠

【問題Ⅰ】最高裁判決による物品の意匠の類似の判示と、意匠法における類似を判断する視点につ
いての理解を確認する。
また、登録意匠同士の類似範囲が重なる場合、意匠法はどのようにこの状態を整理して
いるかの理解を確認する。
【問題Ⅱ】意匠の新規性の喪失の例外(意匠法第4条、同法第60条の7)及び秘密意匠(同法第14
条、同法第60条の9)について、意匠登録出願とハーグ協定のジュネーブ改正協定に基づ
く国際出願との手続の相違点を通して各制度の理解を問う

③商標

【問題Ⅰ】商標権の存続期間の更新登録制度についての基本的な知識及び理解を問う。
【問題Ⅱ】(1) 国際商標登録出願についての設定の登録前の金銭的請求権に関する理解を問う。
(2) 国際登録の消滅により国際登録に基づく商標権が消滅した場合における、商標権の行
使についての理解を問う

引用元:令和4年度弁理士試験論文式筆記試験(必須科目)問題及び論点 | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)

うーん、答案にすると長いけど論点はめちゃめちゃあっさり書かれているんですね。やっぱり解答が欲しいんですけど


安心してください。少しすると各予備校が模範答案を過去問として販売します。論文試験の過去問は最も重要なアイテムです。というのも同じような論点が毎年繰り返し問われているからです。
予備校に通っている方は、講師が正しい方向性を示してくれるのでおかしな方向に行くことはありません(それでも変な方向の勉強に走る人は結構います。)
特に独学の方は、変な方向に走りがちです。独学の方は、論文の書籍としてまずは次に紹介する過去問集を購入して、過去問から離れない勉強をするべきです。
論文の過去問集はLECのものがよいと思います。令和4年のものはまだ出版できていないようです。

 で、結局お前さんの感想はどんなかんじだったのか?

論文試験の問題を解いて思ったこと

特許1について

さっそく解いてみましたが特許1の設問1はかなり難しいと思いました。
というのも外国語特許出願を基礎としてパリ条約の優先権を主張するパターンを過去問や答練で見たことがないからです。
この問題は出願Aと出願Cのみでイロハすべての権利を取らなくてはならないところがミソです。 パリ条約の優先権を主張することに気づくのにある程度時間がかかるとおもいます。さらに出願Aが外国語特許出願なのでその後の手続きも184の条文を引きながらになると思うので時間内に終わらせるのは難しいと思います。人によっては、むきになってこの問題にかなりの時間を費やして他の問題が十分に解けなかったのではないかと思います。この問題は配点が50点です。この問題だけできても合格できないのでこの問題に時間を取られてしまった人は明らかに作戦ミスです。
一方で特許1の設問2は相当簡単な問題でした。冒認出願に対する対応や考え方は予備校の答練でも過去問でもかなり出てきたパターンだと思います。難易度としては簡単でしたが29条、29条の2、39条の拒絶理由の理解を問う良い問題だったと思います。

特許2について

一方で特許2はどうでしょうか?まず最初の印象は

 問題が長い。。。文字だらけで読む気が起きない。。

おそらく受験生の印象としては、特許1で頭をフルに使って疲れたとこで、この文章を読んで理解するのはきつかったでしょう。ただ内容自体はたいして難しくなく新しい切り口もないオーソドックスな問題でした。
それと問題の設定がやけにリアルで実務でもありそうなシーンでした。こういった事案を日ごろから処理している企業の知財担当の方はちょっとだけ有利だったかもしれません。

ちょっと気になったのは、本問では「甲・乙間の共同開発から生まれた共同発明に係る特許を受ける権利は乙に帰属すること」といったところが契約に定められていますが、これが適法ではないと感じた人がいるかもしれません。しかし、契約の自由から考えると適法ですし実務でもある話です。

なんとなく乙は悪い奴っぽい。。

たしかに、共同開発の成果を吸い上げて契約を更新しなかった乙は一見悪い奴に見えますが、乙の行為はすべて適法です。反対にスタートアップで小規模ながら技術力を持って頑張っている甲は一見応援したくなりますが、甲の行為は明らかにイリーガルです。
事案は複雑ですが、要は移転請求と79条の2ですね。

ただ一点だけ私が事案として気になったのは、丁は甲と丙の合弁会社というところです。
少なくとも甲は、甲と乙との共同開発契約のことを知っているはずです。そのような甲が設立した合弁会社に79条の2を認める必要があるのか?もしこれが許されるならば、冒認出願して新しい会社を設立して、通常実施権を許諾すれば79条の2の通常実施権が手に入ることになります(対価は必要)。
しかしこれは試験問題です。問題文には「この提起の事実により丁は、甲・乙間の共同開発に関する事情を初めて知った。」とあるので、「なるほど素直に丁は知らなかったんだ!」と考えるべきです。

さて設問2は独占的通常実施権者が損害賠償請求できるという答練では何回もこすられた内容でした。
原則的には通常実施権は不作為請求権ですので、特許権者と間でしか効力を生じません。

 「特許権者さん、僕は通常実施権を持っているから、特許発明を実施しても特許権を行使しないでね」といった権利で、この二者間にのみ有効で第三者に効力を生じるものではないんですね。
ここを説明することが大原則なので非常に大事です。入門コースなどでも専用実施権は物権的権利、通常実施権は債権的権利と習ったはずです。
そして本問では独占的通常実施権なので例外になります。
独占的通常実施権を許諾された者は、市場を独占できると思いますよね。そう思って料金を支払いますし、事業戦略を立てると思います。そういった期待が害されるので例外的に損害賠償を請求できるのです。

意匠について

問題Ⅰは、(1)はいわゆる一行問題。
なにを問われているのかよくわからなかった方もいたのではないでしょうか?
条文に書いてあるし、当然やんって思いました。
(2)は可撓性ホース事件でした。
聞かれているのは24 条2項の趣旨ですね。
(3)は類似範囲と類似範囲が重複した場合の簡単な問題でした。

問題Ⅱは、ハーグ協定の問題です。
ギョッとした人もいたかと思いますが、内容はやばいくらい簡単でした。
ただ(1)ではこのままで出願したら拒絶理由に該当することをきちんと説明するようにしましょう。
(2)の公表の延期についての請求(ジュネーブ5条⑸)は出なかった人もいたと思います。

問題Ⅰは根本を問う問題だったので準備していないと厳しかったですが全体的に見て簡単だったかと思います。ただ自分の経験からも言えることですが、意匠の恐ろしいところは手ごたえと結果が一致しないことです。
意匠させ合格点ならば合格できていた年が何回かあります。全部の論点に触れたはずなのに。。。と、とてもくやしい思いをしました。そしてこれは私だけではなく周りにも数人いました。

唖然とする女性

みんなができる問題だからこそ、本質的理解を答案に落とし込んでアピールできたもののみが合格答案に選ばれるのです。
意匠は特に論述の順番や言葉の正確さなど意識して解答を作成しましょう。

商標について

問題Ⅰは趣旨問題でした。
難易度は非常にやさしく、多くの受験生ができたと思うので差がつかなかったと思います。
(1)は更新登録制度の趣旨でした。
更新は四法でも商標特有の制度です。やはりこういったテーマが試験では狙われやすいです。
(2)については、一見条文をそのまま書けばできてしまう問題ですが、更新の例外まで細かく説明しだすと収拾がつかなくなり、答案爆発が起こりえます。要約する力が必要だったと思います。

問題Ⅱはマドプロでしたね。
特許の問題Ⅰ程ではありませんが結構斬新な事例問題に思えました。
また(2)の「最も妥当と考えた理由」も解答しなくてはならないところが頭を悩ませたのではないでしょうか?
LECの答案のように不当利得返還請求に対して、損害額の推定などの立証負担軽減がある点を記載できた受験生はどれくらいいるのでしょうか。
すでに権利がなく差止請求ができないから、損害賠償請求するんだという回答にした受験生も多いのではないでしょうか?


調査

Posted by kisaragia