答案爆発 論文試験では、地雷になりうる??発明の単一性について

2022年2月18日

本日は発明の単一性についてです。
特許法では発明の単一性について37条に規定されています。

二以上の発明については、経済産業省令で定める技術的関係を有することにより発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するときは、一の願書で特許出願をすることができる。
引用元:特許法第三十七条

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一の出願で、無限の発明を出願できるとした場合の問題

一の出願で制限なくたくさんの発明を出願できるとすると次のような問題が生じます。
①出願人間での不公平

発明の単一性の趣旨の図

Aさんは一の出願で1個の発明を出願しました。
Bさんは一の出願で100個の発明を出願しました。
こうなるとお金の面でも手続き負担の面でも不公平です。

②権利の不明確

発明の単一性の概念図

発明Aの出願かと思ったら、他にもいろんな発明が記載されていて権利範囲がわからなかったよ

一の出願で一の発明しか出願できないとした場合の問題

一方で、1つの出願で1つの発明しか認めないとすると
①出願人にとって 負担が増える
関連の深い発明でもそれぞれ出願しなくてはならないから費用もかかるし、時間もかかる。
②第三者にとって 関連した特許情報の取得が困難になる
  関連の深い発明でもそれぞれ調査しなくてはならないから。
③特許庁にとって 関連する発明をまとめて効率的に審査することができない
 関連の深い発明でもそれぞれ審査しなくてはならないから。 
ここで、特徴的なのは「出願人」「第三者」「特許庁」の3つの立場で記載されていることです。単一性を認めることは3つの立場にとってメリットがあるのですね。
そこで特許法では発明の単一性を規定しています(37条)。

結局一の出願でどれくらいの発明を出願できるのか?

一の出願で一の発明を出願できるようにしても、無限に出願できるようにしても問題が生じることはわかったよ。じゃあ、一の出願でいくつの発明なら出願してよいの?


「いくつ」ではなくて、「経済産業省令で定める技術的関係を有することにより発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するとき」は一の出願できます。
よくわからないですよね。これを理解するには特許法施行規則を参照する必要があります。

特許法第三十七条の経済産業省令で定める技術的関係とは、二以上の発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有していることにより、これらの発明が単一の一般的発明概念を形成するように連関している技術的関係をいう。
2 前項に規定する特別な技術的特徴とは、発明の先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴をいう。
3 第一項に規定する技術的関係については、二以上の発明が別個の請求項に記載されているか単一の請求項に択一的な形式によって記載されているかどうかにかかわらず、その有無を判断するものとする。

引用元:特許法施行規則 第二十五条の八 

1項より、経済産業省令で定める技術的関係を有するということは
「二以上の発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有していることにより、これらの発明が単一の一般的発明概念を形成するように連関している技術的関係をいう」
のですね。

上記の特別な技術的特徴は、発明の先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴をいうのですね。2つの発明の先行技術に対する貢献を比較して、それが同一対応するものになっていなくてはならないのですね。 同一対応するもの になっている例は審査基準に記載してあります。
以下は審査基準のその部分の引用です。

同一の場合 
[請求項 1] 高分子化合物 A(酸素バリアー性のよい透明物質)。
[請求項 2] 高分子化合物 A からなる食品包装容器。
(説明)
高分子化合物 A が先行技術に対する貢献をもたらす特別な技術的特徴である。請求項 1 及び 2 に係る発明は、いずれもこの技術的特徴を有しているから、同一の特別な技術的特徴を有する。

対応する場合
[請求項 1] 窒化ケイ素に炭化チタンを添加してなる導電性セラミックス。
[請求項 2] 窒化ケイ素に窒化チタンを添加してなる導電性セラミックス。
(説明)
請求項 1 及び 2 に係る発明は、窒化ケイ素に添加する物質がそれぞれ、炭化チタン及び窒化チタンである点で、異なる技術的特徴を有する。ここで、請求項 1 及び2 に係る発明が先行技術に対して解決した課題は、窒化ケイ素からなるセラミックスに導電性を付与することによって放電加工を可能にすることである。したがって、請求項 1 及び 2 に係る発明は、先行技術に対して解決した課題が一致又は重複しているから、先行技術との対比において発明が有する技術上の意義が共通しているものであり、対応する特別な技術的特徴を有する。

引用元:特許・実用新案審査基準(https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/all.pdf)

論文試験における発明の単一性

じつは発明の単一性は、論文試験においてはどれくらい論じるかどうかが悩ましい項目です。
内容が間違っていなければ、書いたことで減点されることはありませんがここまで読んでもらえばわかる通り複雑です。間違える可能性のもあるでしょう。しかし単一性について論じる一番のリスクは答案爆発と時間切れです。論理立てて説明しようとすると答案が爆発し、さらには時間を費やし他の項目が書けなくなってしまいます。
例えば出願段階の事例問題で、2つの発明について出願するケースだからといって、上記の条文に当てはめて要件検討をしてしまうとそれ自体は間違っていなくても、他のもっと大事な出願の要件をかけなくなってしまう恐れがあります。
どこまで検討するかは、問題によるところです。また論文試験は相対評価なので他の受験生が書くかどうかがポイントにもなります。受験生のレベルも変化しますし時代によっても変わってくるのではないでしょうか?

開発者と発明の単一性

ところで、私は開発職ですが特許を出願する際に発明の単一性を気にしたことはほとんどありません。
自分の意志で複数の発明について単一性を考えて1の出願にすることはまずありません。むしろ別の出願として出願されることを願っています。別々の出願として出願してくれたほうが、自分が発明者となる特許出願件数も多くカウントされますし、会社からの報奨金も多くもらえます。

まとめ

論文試験の独学合格に必要な書籍

 条文集

 論文試験の過去問

 青本(工業所有権逐条解説)

 レジュメ

 改正本

 論文の書き方の本

小ワザ

Posted by kisaragia